強度行動障害への理解とエビデンスに基づく支援
本ページは強度行動障害についてのエビデンスに基づいた理解と支援に関する情報について、支援者や親御さんにむけて提供するものです。
近年海外では行動上の問題について、「問題行動」(Problem Behavior)という名称からChallenging Behavior(チャレンジング行動)という言葉として表現されるようになってきています。これは、行動上の問題は本人が有するものではなく、環境との相互作用の中で生じるものであるということ、そして支援者や社会の側がチャレンジすべきものであることを示しています。
本ページでは私どもの研究成果や国内外の研究論文の紹介を交え、将来のあるべき支援について考察していきます。
強度行動障害とは
「強度行動障害とは、自傷、他害、こだわり、もの壊し、睡眠の乱れ、異食、多動な ど本人や周囲の人の暮らしに影響を及ぼす行動が、著しく高い頻度で起こるため、 特別に配慮された支援が必要になっている「状態」である。強度行動障害にはさまざまな状態像が含まれているが、強い自傷や他害、破壊 などの激しい行動を示すのは重度・最重度の知的障害を伴う自閉スペクトラム症 の方が多く、自閉スペクトラム症と強度行動障害は関連性が高いと言われている。」
強度行動障害を有する者の地域支援体制に関する検討会報告書(令和5年3月30日)より引用
解説
本邦独特の行政概念であり、医学的診断名ではないことに注意が必要です。また「状態像」であるということは、これが環境と個人との相互作用から生じるものであるということです。私個人としてはネーミング的には、Severe Challenging Behavior「SCBのある人」などの方が良いのではと思っています。
強度行動障害の判定
行動関連の福祉的支援を受けるための判定として、今までいくつかの判定基準が設けられてきました。最初のものは「強度行動障害判定基準表」で10点以上という基準が設けられていました。現在これは医療度判定基準(10点以上)、強度行動障害児支援加算(20点以上)などに用いられています。現行の基準は「行動関連項目」で10点以上という基準となっています。
解説
「強度行動障害判定基準表」から「行動関連項目」に基準が移行した結果、対象者が倍以上になりました。これは「コミュニケーション」や「説明理解」という項目の追加によることが大きいように思います。質問紙による主観的なものであり、限界性はありますが尺度としての信頼性には課題があるように思います。国際的に使用されているBPIのように頻度だけでなく重症度との二軸で判定するのが妥当に思います。
強度行動障害のある人の数
「障害福祉サービス・障害児支援において、強度行動障害関連の支援や加算の対 象となっている人数は、令和3年 10 月時点でのべ 68,906 人となっている。 令和3年度実施の調査研究において、各自治体が公表している強度行動障害を 有する者の人数に関する調査を参考に障害支援区分認定調査結果データを活用 して強度行動障害を有する者の人数の推計を行ったところ、1年間に障害支援区 分認定調査を受けた 267,569 件分のデータのうち、行動関連項目の合計点が 10 点以上は約 15%であり、20 点以上の人は約 1.2%であった。」
強度行動障害を有する者の地域支援体制に関する検討会報告書(令和5年3月30日)より引用
解説
海外の研究では何らかの行動上の問題(challenging behavior 以下CB)のある人の数は、知的発達症のある人の成人の10-20%、このうち重度のCBは 4~10% であるとされています。に発生することが示されていますといわれています(Lundqvist, 2013)。使われている基準が異なるため国際比較がしにくいのが現状です。「強度行動障害」という場合、10-20%ではないように思います。旧来の「強度行動障害判定基準表」で10点以上で鳥取県で調査研究では、療育手帳を所持している人の2.6%であり、海外研究の「重度のCB」にも近い数値です。各自治体の実施している調査結果も参照してください。
強度行動障害の評価
日本においても知的発達症のある人の行動面の課題について客観的かつ包括的に評価できるツールが必要です。国際的に使用されている主な評価としてはABC(Aberrant Behavior Checklist)やBPI(Behavior Problem Inventory)などがあります。このようなスクリーニング尺度については、信頼性と妥当性だけでなく、その普及を考えると「無料」であることも重要であると思います。筆者らの研究チームではBPIの短縮版であるBPI-Sの日本版を作成しました。商用利用以外では無料で活用できます。詳しいHPはこちらです。
BPI-Sはスクリーニングとして、それぞれの学校や事業所にハイリスクの人の数や推移を定期的に把握することができます。また行動上の問題は、形態を変えて複数の場面で生じることが多いため、家庭、支援場面など複数の場面で評価していくとよいでしょう。自傷、攻撃/破壊、常同行動と包括的に把握できるため、支援の標的行動以外の行動について、全体把握していく際にも活用できます。
強度行動障害の機能的アセスメント
いわゆる課題となる行動への治療的アプローチについては、介入の以前に「その行動がなぜ生じているか」を当事者の視点で理解していく必要があります。機能的アセスメントは米国では障害のある人の教育法(IDEA)で英国ではNICEのガイドラインにおいて推奨され、「国際標準」ともされているものです。日本でも強度行動障害を有する者の地域支援体制に関する検討会報告書で推奨が記載されました。
機能的アセスメントはその行動の前後の状況から、その行動の機能を推定するもので、その機能によって環境調整やコミュニケーション支援、余暇支援を組み立てていきます。機能的アセスメントは間接的アセスメントとして質問紙とインタビュー、直接的アセスメントとして行動観察と実験的操作(functional Analysis)があります。
解説
機能的アセスメントに基づくアプローチは多くのエビデンスがあり、支援の第一選択であると考えています。機能的アセスメントは、簡便な間接的アセスメントを行い、その仮説に基づいて行動観察行うなど、段階的に実施することが推奨されています。本HPでは質問紙としてFAST(Functional Analysis Screening Tool)と、行動観察のための行動観察シート、スキャッタープロット、アプリケーションとしてのObservationsを提供しています。いずれも無料でご活用いただけます。
強度行動障害に対する機能的アセスメントベースの支援
機能的アセスメントに基づくアプローチは国内外で多くのエビデンスがあり、現時点での支援の第一選択であるといえます。機能的アセスメントに基づいた介入は、そうでないものと比較して治療成績に大きな差が生じる(Carr & Durand, 1985)とも言われています。最近の研究では問題とされる行動に代わるコミュニケーションを教えるプログラムとして、機能的コミュニケーショントレーニングに関する研究が多く行われています。本HPにおいては、ストラテジーシートなどのツールやそれを使用した筆者の研究を紹介しています。東京都の強度行動障害アドバンス研修、鳥取県の強度行動障害専門研修などでも実施しています。
強度行動障害に関する厚生労働省関連の研究
2021 強度行動障害者支援に関する効果的な情報収集と関係者による情報共有、支援効果の評価方法の開発のための研究
2020 強度行動障害者支援に関する効果的な情報収集と関係者による情報共有、支援効果の評価方法の開発のための研究
2017 医療的管理下における介護及び日常的な世話が必要な行動障害を有する者の実態に関する研究
2017 強度行動障害に関する支援の評価及び改善に関する研究
2016 強度行動障害に関する支援の評価及び改善に関する研究
2015 強度行動障害支援者養成研修の評価及び改善に関する研究
2006 強度行動障害を中核とする支援困難な人たちへの支援に関する研究
2005 強度行動障害を中核とする支援困難な人たちへの支援に関する研究
2004 強度行動障害を中核とする支援困難な人たちへの支援に関する研究
2003 強度行動障害を中核とする支援困難な人たちへの支援に関する研究
2002 強度行動障害を中核とする支援困難な人たちへの支援に関する研究
2001 強度行動障害を中核とする支援困難な人たちへの支援に関する研究
強度行動障害支援者養成研修資料 国の研修資料になります。