井 上 研 究 室
Science for Human Services based on Applied Behavior Analysis

鳥取大学 医学系研究科 臨床心理学講座
Tottori University Graduate School of Medical Sciences Department of Psychology
ASDのある方のビデオ通話時におけるストレス,困難感,対処に関する調査 ご協力のお礼
調査にご協力いただいた皆様に深く感謝申し上げます。
お礼に代えまして結果の要約をお知らせいたします。本研究は学会での発表及び学会誌への投稿を予定しております。本研究の結果が少しでも協力者の方、及びASDのある方にお役に立てれば幸いです。
Ⅰ.問題と目的
自閉スペクトラム症(以下、ASD)のある方は、Skype等のビデオ通話でのコミュニケーションにおいてストレスや困難感を抱える可能性が示唆されていますが、詳細は明らかになっていません。本研究では、ASD傾向・診断のある方と定型発達の方を対象に、ビデオ通話の困難感、ストレス、有効な対処方略や配慮ニーズを調査し、ASD傾向・診断のある方と定型発達の方との比較を行いました。特にASDのある方のビデオ通話時に必要と考えられる支援や配慮について検討を行いました。
Ⅱ.方法
研究対象者・分析対象データ
Googleフォーム上の質問紙を用いて回答を募りました。集まった252名の回答の中から、有効回答の抽出・群分け等の整理を行い、最終的にASD診断・傾向群と定型発達群に分けてしました。
分析方法
自由記述データについては、KJ法によるカテゴリー化の手法を用いた内容分析を実施しました。そして、ASD診断・傾向群において特徴的に示されたカテゴリーに基づき検討を行いました。
Ⅲ.結果
ASD診断・傾向群において、困難感やストレスについては、ビデオ通話においてやりとりされている内容が把握しづらいといったことに関するカテゴリーや、画面等から発せられる刺激から受ける影響に関するカテゴリーが特徴的に示されました。
有効な対処方略や支援・配慮ニーズにおいては、やり取りの内容を視覚化して把握できる方略や支援がなされることが有用であることを示すカテゴリーが特徴的に認められました。
また、ビデオ通話の利点に関しては、自分のタイミングで機器を操作したり、会話の場を離れたりできることに関するカテゴリーが特徴的に示されていました。
Ⅳ.考察
ASD診断・傾向群においては定型発達群と比較して、ビデオ通話内の刺激から受ける影響が困難感やストレスに関連し、さらにそれが、会話内容の把握しづらさ等へ関連する可能性が示唆されました。また、視覚的に情報を把握したり、自分のタイミングで機器を操作して困難感やストレスに対処したりできるようにすることが特に有用である可能性も考えられました。
この結果から、ビデオ通話時のASDのある方への配慮・支援策として、情報を視覚化することの他に、柔軟に機器を操作できるようにするための通話ルールを作ること、画像OFFなど機器操作による負担対処などが提案されました。
Ⅴ.社会的貢献
本研究の知見は、ASDのある方がビデオ通話時に抱え得る困難感やストレスを踏まえた上での支援や配慮を提案するもので、ASDのある方が遠隔心理支援をより負担の少ない形で享受できる方法の検討にも繋がり得る点で、今後のASDの心理臨床に貢献するものと考えられます。
Ⅵ. お礼
お忙しい中、調査にご協力を賜りました皆様に、心から御礼申し上げます。ありがとうございました。
担当者 鳥取大学大学院医学系研究科臨床心理学専攻 由留木健悟(ゆるきけんご)