2020

Inoue, M., & Kaneko, S. (2020). Survey of Japanese Welfare Facility Staff and Special School Teachers Facing Difficulties at Work with Persons with Challenging Behaviors. Yonago Acta Medica, 63(4), 326-334.

 

 

知的障害のある人々の行動上の問題における​​日本の福祉職員と特別支援学校教師の支援の困難感とニーズについての比較調査

解説

知的障害のある人の行動上の問題においては、生涯にわたる一貫した支援体制が必要とされています。このような一貫性のある支援の実現のためには、乳幼児期から成人期に至るまで彼らを支える様々な支援者について、困難感やニーズを把握することが必要です。この研究の目的は、福祉事業所の職員と知的障害特別支援学校の教員から、行動上の問題を支援することに関する困難感とニーズについてデータを収集し、福祉職員と教員の違い、スタッフの年齢や経験年数による差異について明らかにすることでした。日本の特別支援学校の教員(n=317)と知的障害者福祉施設・事業所の職員(n=202)を対象に、行動上の問題に対する困難感やニーズについて23項目からなる質問紙調査を行いました。結果、"他機関との連携・情報共有の困難"、"職場内での困難感"、"支援・対応の難しさ "の3つの要因が抽出されました。全体的に福祉職員の方が特別支援学校の教員よりも困難感やニーズが高い傾向が認められました。現在、日本では強度行動障害に対する福祉職員への研修として「強度行動障害支援者養成研修(基礎・実践)」が行われていますが、これらは行動面への対応が中心となっています。これらの研修の内容に、職場内でのシステム構築、他機関との連携体制の築き方など職場環境のマネジメントに関する内容を、職員の経験年数や職階などに応じて取り入れていくことが重要であると考えます。

 

Inoue, M., & Oda, M. (2020). Consultation on the Functional Assessment of Students with Severe Challenging Behavior in a Japanese Special School for Intellectual Disabilities. Yonago Acta Medica, 63(2), 107-114.

 

 

日本の知的障害特別支援学校におけるチャレンジング行動の機能的アセスメントに関するコンサルテーションの効果

解説

 

知的障害のある人の10%~20%が自傷行動や他害的行動、破壊的行動、常同的行動などの行動上の問題を抱えているといわれています。「チャレンジング行動(Challenging Behavior)」とは、近年「問題行動」という用語に代わって、環境との相互作用の中でこれらの行動が生じていることを強調するために使われています。重度のチャレンジング行動のある8人の生徒に対して6か月間で1人3〜6回の外部コンサルタントチームによる機能的アセスメントに基づいたコンサルテーションを実施しました。機能的アセスメントの結果、コミュニケーション機能を伴う8つの行動と感覚強化の機能を推定された2つの行動がターゲットとされました。行動の生起頻度の記録から6つの行動について高い改善効果が示されました。また事前事後のABC-J、CBCL、強度行動障害評価基準の各尺度の指標について統計的に有意な改善が見られました。知的障害特別支援学校に在籍する子どものチャレンジング行動に対する短期的な外部コンサルテーションの効果とその課題について考察しています。

Haraguchi, H., Yamaguchi, H., Miyake, A., Tachibana, Y., Stickley, A., Horiguchi, M., Inoue.M,. Noro F. & Kamio, Y. (2020). One-year outcomes of low-intensity behavioral interventions among Japanese preschoolers with autism spectrum disorders: Community-based study. Research in Autism Spectrum Disorders, 76, 101556.

 

 

自閉スペクトラム症のある日本の就学前児における低強度の行動分析による介入の1年間の結果:コミュニティベースの研究

解説

 

自閉症スペクトラム(ASD)の早期療育においては、ABAによるアプローチが高いエビデンスを示すことが多くの研究によって報告されています。しかし日本のように応用行動分析(ABA)の専門家が不足している地域では、ABAによる療育を受けることが困難であったり、受けることができたとしても低強度(療育時間や回数が少なく制限される)であったり、養育者の経済的コストが高くなる傾向にあります。この研究では、低強度の行動的介入(週平均5.5時間)または非ABAの介入を受けたASDのある就学前の子どもたちの行動変化を、日本の地域で1年間にわたって実施、追跡し、比較しました。グループ間の結果。ベースライン時と1年後の子どもの発達指数、適応行動、自閉症の症状/重症度、および母親のストレスと抑うつを評価しました。研究の結果、地域で介入を受けている子どもたちは、言語と社会性発達の改善を示したことが明らかになりました。特に低強度のABAを受けた子どもたちの改善の程度は、非ABAの介入を受けた子どもたちよりも言語と社会性発達において統計的に有意に大きかったことが示されました。またこれらの改善は、特に1対1の介入の合計の強度に関連していました。一方、他のアウトカム指標の改善の程度にグループ差はありませんでした。この結果は、ASDのある就学前の子どもたちが、言語と社会の発達のために低強度のABAが有益であることを示しています。

井上雅彦・奥田泰代 (2020) ペアレント・メンターにおける自己体験の語りの意味 自閉症スペクトラム研究 18(1),15 - 20.

 

解説

 

発達障害の親であり親のための相談者であるペアレント・メンターの役割として、我々は以前から傾聴と共感、地域の情報提供の二つをあげてきました。しかし、メンターの体験を聞きたいという相談者の親御さんからのニーズは強く、また実際に活動の中で行われていることから、最近は第三の役割として「自分の体験を語る」を応用として取り上げてきています。この研究では、メンターが自らの体験の語りについて、聞き 手である他者との関係の中でどのように捉え、価値づけしているのかを検討するため、ペアレント・メンター 52 名 (51 名が子どもに自閉スペクトラム症の診断あり)を対象に自分の体験を話した機会とその肯定的体験、否定的体験 及びその理由について自由記述の質問紙で回答を求めました。それらの内容は KJ 法に準拠した手続きにより整理・分析されました。本研究の結果から、ペアレント・メンターがメンター活動の中で自己体験を語るさまざまな機会が示されました。特に肯定的体験や否定的体験になりやすいカテゴリ項目が存在すること、また同じカテゴリの項目でも関与する要因によって、 肯定的体験にも否定的体験にもなりうることも明らかになりました。またこれらの体験に関与する要因として、【聞き手 からの共感】【聞き手との交流】【達成感】【語りへの抵抗】という 4 つが得られました。これらの結果をもとに、ペアレ ント・メンターが自己体験を話すことの意味とメンターの語りという活動への支援のあり方について考察しました。

 この研究から、メンターが自己体験を話すという活動の中で新たな価値を発見したり、自分の体験の意味を肯定的に捉えることができるというポジィティブな可能性が示唆されました。また逆にメンターが話したいことを話すだけでは聞き手である親に伝わらないだけでなく、相手からも共感を得られず、結果的に体験を語ったことがネガティブな体験になってしまうリスクもあるということも示唆されました。自己体験の語りから相手の共感を得るためには、相手がメンターの体験の何を知りたいのかを知る必要があります。そのためには、やはりメンター自身が傾聴や共感ができていることが前提であるといえるでしょう。聞き手のニーズを理解するためには傾聴と共感が基本となるからです。また、自己体験の語りの前にメンター同士で練習したり確認するなど、事前のサポートや研修が必要ではないかと思いました。

 

石坂務 井上雅彦 (2020) 感覚過敏性と家庭内暴力を呈した 自閉症スペクトラム児に対する登校支援 自閉症スペクトラム研究 18(1), 5 - 13.

 

解説


過度な感覚過敏性とこだわりから不登校状態へ陥ってしまう場合があります。環境整備と安定化を行いながら、本人の状態に合わせて教育的な機会を設定し、十分なアセスメントと適応行動の獲得、不安を低減する治療的アプローチを実施することが大切です。登校は学校自体に居場所を設置し、教師からの対応を増やしていきます。また他害や破壊などの行動がみられる場合、登校の前提として親御さんや家族のケアやピンチの時の支えを地域に作っていく必要があるでしょう。本研究では、不登校状態にあった自閉症スペクトラム男児に対し、対象児が課題として有していた感覚過敏性とこだわり、暴力行為についての実態把握を行い、学校、教育委員会、警察、行政など、地域機関の支援体制を整 えました。その上で、大学附属専門機関(以下、専門機関)が中心となり、行動論的アプローチを用いた登校支援を行い その効果を検討したものです。支援当初は男児の持つ過敏性の高さに対し、学校や家庭等周囲からの理解が得られにくく、男児は学校だけでなく外出自体に嫌悪的で抵抗を示しました。そのため、当初の目標を学校への登校ではなく専門機関への来所行動に設定しました。アプローチとして、過敏性に配慮し、調整した環境において対象児の好みに基づいてアニメやゲーム の話をする等、本人の拒否が出にくい設定から来所課題を開始し、段階的に学校でも取り組める学習活動や運動を取り入れていきました。また、並行して母親と面談を行い、家庭での環境調整を行うことで、暴言や暴力行為の低減をはかりました。専門機関の来所行動を定着させたのち、学校と連携し登校支援を行いました。連携に関しては、校内の支援チー ムと会議をもち、対象児の実態について引き継ぎを行い、かかわる教員、時間、学習活動を段階的に増やしていき、 学校での個に応じた支援の引き継ぎと対象児の自発的な登校を定着させました。

 

山中智央 井上雅彦(2020) 場面緘黙症を認知した際の母親に生じる心理的反応の質的分析 : 緘黙児・者を持つ母親の手記を通して 鳥取臨床心理研究.13, 21-31

 

解説


本研究では,場面緘黙児・者の母親によって執筆された手記を通して,緘黙児・者の母親が場面緘黙といった名称をメディアや文献を通して,または教育関係者や医療関係者から情報提供された際にどのような反応が生じるのか分析を行った。分析ではテキストマイニングの手法を用いて,階層的クラスター分析を実施した。その結果,場面緘黙児・者の母親が場面緘黙といった名称を認知した際に生じる心理的反応には,【①緘黙症を重大には捉えない】,【②不安の増減】,【③ショックや後悔から早く治してやりたいと思う】,【④腑に落ちる感覚が生じる】,【⑤名称があることを知ってほっとする】の5 つが示された。これらの結果から,場面緘黙児・者を持つ母親に対する支援では, 母親自身が持つ不安への対処法を身につけることや,場面緘黙症について正確な情報を得られる環境の構築が重要になることが考えられた。テキストマイニングやクラスター分析を使用した研究手法の応用性について考察した。

 

由留木健悟 井上雅彦(2020) 自閉スペクトラム症者における画面を介したコミュニケーション 鳥取臨床心理研究. 13, 3-10.

 

解説


自閉スペクトラム症のある人にとって,デバイスを用いて文字によるやりとりを行うコミュニケーションは,有効なツールとなる可能性が指摘されてきた。しかし,近年ニーズが高まっているZoomやSkypeなどによるコミュニケーション,つまりデバイスの画面を介した状態での対面コミュニケーションについては,明らかでない部分が多い。画面を介した形で行われるコミュニケーションは,文字によるコミュニケーションとは異なる特徴を持ち,また,対面でのコミュニケーションとも異なる特徴を持つと考えられ,自閉スペクトラム症のある人に対してもこれまでのコミュニケーションと異なる影響を与える可能性がある。本論文では,画面を介したコミュニケーションが自閉スペクトラム症のある人に対してどのような影響を及ぼし得るのか,その特徴や先行研究をもとにして考察し,さらに今後必要となる研究の方向性を展望する。